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~夢の底─

第1章  ─水と炎と。

 バドミントンのラケットを持ち、「やりませんか、風も少しあるけど…」ヒースはシャトルを空中に投げた。「ラケット、どこにあったの」「誰かの忘れ物。あそこで、見つけたんです」小高く盛り上がった砂を取り囲むように、雑多な道具が寄せ集めて置かれていた。「いいよ。思いっきり、飛ばして」シャトルが風に乗り、ふたつのラケットを行き来する。
「少し高く─」一匹の灰色まだらの海鳥が、シャトルの上をひらりと越えて行く。「…風出てきましたよ」矢のように潮風に逆らい駆るシャトル─。「近づいて…こっちにもっと来て」二人は距離を縮めた。「─風来た。右行くよ」夕陽いろのシャトルは、海風に靡く、黄金の流れ雲に見える。
 二人の足元の砂も、同じ輝きをした。



 ─帰りのバスも、乗客は二人だけだった。窓の外はまだ残照が、ほの明るい。「貸し切りみたいだね」「ソウルまで直通ですよね。贅沢な帰り道…」笑顔は二人とも、黄昏時の陽の色だった。
「さっき買ったお土産─ユノ先輩にですか」「夕食の材料にね。…ユノ、帰ってるかわからないけどね」膝のビニール袋を取り、傍らに移した。
「僕のお土産はこれです」シャトルが手のひらにあった。

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