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~夢の底─

第1章  ─水と炎と。

 「海はまだ風が強いみたいですね」─白い波が展望台のテラスにも、打ち寄せて来そうだった。「波、荒れてるね」帽子を押さえながら云うと、「金髪に麦ワラ帽子、合いますよ。チャンミンさん」白のキャップの頭をかたむけて、ヒースが微笑む。「オーバーオールも着て、農場行こうか」軽やかな笑い声が立った。
 「…ここまで、誰にも会わなかったね」「夏終わったし、海中公園や展望台の他は御堂だけでしょう」テラスの真下の広場も、車1台駐まっていない。「夏休みなら、泳ぐ人でいっぱいでしょうね」「今年も夏は休みなしで終わった…」カラカラと、風向計が乾いた音を、気まぐれのように送って来る。「…そろそろ、お昼でしょう? …」─太陽が、二人の影を並べつくる。「御堂の脇のアスファルトの道、けっこう広かった。売店あると思う」…海の音に耳をすますように、いっとき二人黙り込む…。
 ヒースが何か云った。「どうした?」風向計をさして、「降りてお昼食べるところ、探しましょう。ここも…風強くなりましたよ」ヒースの言葉の終わらないうちに、風向計は逆にまわり出した。



 …デニムの上着の衿を立てた。「風止んでも夕方だね、寒い感じ…」海の波は金の色─。

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