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~夢の底─

第1章  ─水と炎と。

 「弟ですよ…」笑いながら、云った。
「そうですね、ホントに仲良いですもんね」インタビュアーは、ユノから離れてグラビア撮影のバックボードの前に立とうとするチャンミンを、横目でチラチラ見る。…またユノに向き直る。「それじゃあ、ユンホさんはお兄さんとして弟のチャンミンさんのどんなところが─」「ライト! ひとつ落とせ」カメラの後ろからの不意の怒鳴り声が、狭苦しい撮影スタジオ内にキンキン響く。
 (…弟…)スタイリストが襟をなおしに、近寄ってくる。
 「パターン替えて…」メイク担当のショートヘアの女性が、道具とタオルを抱え、走ってやってきた。セットの薄い影がボンヤリと、白茶けた床に、うつる。(─弟。…僕のことを)前髪が何度も直され、額から鼻筋にかけて、念入りに化粧ブラシが行き来する。
 ユノが笑顔で立ち上がり、インタビュアーに一礼して、こちらに歩き出す。「チャンミン、チャンミンさん─!」フロアの向こうから、アシスタントがイラついた顔で注意をとばした。
 その大声にも、ユノは顔さえ向けないで、チャンミンの脇を抜け、メイク室に入っていった。



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