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~夢の底─

第5章 霙──

 ──「それじゃ俺帰るな。お前来たしな…」「レラ兄さん。お世話かけます─明日からは海外ロケでしょう…」「弟どもが困ってんだ。大した面倒じゃあ、ない……」ドアの前で振り向く。淡い水色のジャケットから車の鍵を出し、「電話くれな。心配だ─」チラッとチャンミンを見て、それだけ云い、マンションの部屋を出て行った。
 リビングに戻り、パーティションを開けた。
 「ユノ」ため息をつくぐらいの小声で、そっと、呼んだ。
 「ユノ?」パーティションの中は、ゲスト・ルーム。家具は大きいソファベッドがあるきりの、空間──。明るい芥子色の毛布を掛けて、ユノは浅い眠り…。
 「レラ兄さん。帰りました…から─」ソファベッドの手前で立ち止まる。
 「……欲しいもの、あったら云って─」怠いのか、目を閉じたままユノは、横に顔を向く。
 「─リビングにいますね」壁の片隅の照明を薄暗くした。リビングを抜けて、キッチンにいくと甘くコーンが匂う。ミルクポットにスープが用意されてある。ケトルを脇のレンジに掛けた。
 ツィードの上衣を取り、椅子に置く。片付けられたキッチンを眺めた。 ─テーブルの上の時計は、1日の終る時間を、示す……。

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