テキストサイズ

はな*つむ

第1章 陽炎

 氷雨は紅蓮の隣を過ぎ、屋敷の中に向かう。
 廊下を歩き、奥へ奥へと歩を進めた。

 美しいふすまの部屋をいくつか過ぎて、たどり着いたのは一際美しい絵柄のふすまで閉じられた部屋。

「大兄様、氷雨が参りました」

「入れ」

 氷雨の言葉に返ってきた男性の声。
それに従って氷雨は静かにふすまを開ける。

 入って一礼の後、ふすまを閉めて向き直った。

 部屋の中には黒い髪の男性がいた。
 氷雨の兄であり、家の中で二番目に権力のある人だ。

 名前は氷桜(ひおう)。
 この都で、最高位の妖魔を退治する者……《退魔師(たいまし)》でもある。

 氷桜は微笑んだ。
 氷雨と同じ灰色の瞳で前に座った彼女を見つめる。

「今日でお前も十六だ、明日より退魔師としてお前も都のために尽力しなければならない」

「はい、覚悟はできてございます大兄様」

 氷雨は強く答え、氷桜の目を真っ直ぐに見つめ返す。

「では今夜……退魔師になる為の儀を行う、今夜はミツミの間へと行きなさい」

「……はい、大兄様」

 素直に答え、氷雨は頭を下げた。







 氷雨の生まれた家は、退魔師の家だ。
 子ども達は、余程の理由がない限りには、必ず退魔師になる。
男ならばその歳が十四の時。
女ならば十六の時に退魔師になる決まりだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ