テキストサイズ

小春食堂【ARS】

第23章 バンパイア【潤】

俺は、畳に突っ伏して泣いた。


「どうしてわかってくれないんだよ!」


畳にこぶしを何度もぶつけた。


「わかってる。」


小春ちゃんが、ひざまづいて俺の肩を起こした。

「潤くんのこと、ちゃんとわかってる。」

「小春ちゃん…?」


小春ちゃんは、そっと俺を抱き寄せた。


「高校出てすぐ家を飛び出して苦労したこと、ちゃんとわかってる。」


白い手で俺の髪をなでた。


「ずっとひとりで、寂しかったこともわかってる。」


細いその胸に、俺の頭を抱き寄せる。


「頼れる人もいなくて、必死で生きてきたこともわかってる。」


生きるのに必死でやさぐれてた時に、小春ちゃんと出会ったんだ。


「わがままで甘えん坊で…。」


こんなわがままな俺を、そのまま受け入れてくれた。


「意地っ張りで俺様で…。」

「うるせ…。」


あの時小春ちゃんと出会わなかったら、俺はどうなってたんだろう。


「努力家で、野心家で…。」


小春ちゃんが、子供をあやすように俺の背中をとんとんと叩く。


「とにかく芝居が好きで、舞台の上では誰よりも輝いててキマってて。」


小春ちゃんの香りは、どこか懐かしい香りで。


「でも、笑うと誰よりもかわいいこと、わかってるよ…。」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ