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小春食堂【ARS】

第23章 バンパイア【潤】

劇団に入るまでは、本当に孤独だった。

友達には面倒ばかりかけて、いい加減うとましがられて。

街で出会う女は、カラダのぬくもりはくれても、冷えきった心はあたためてくれなかった。

家を飛び出したこと何度も後悔した。

家族が恋しかった。

そんな時、この店に来て温かい料理と小春ちゃんの優しさにふれて、俺は立ち直れた。

それからだ。今の劇団に出会ってだんだん落ち着いてきた。

バイト生活と稽古でヒーヒー言ってても、満たされていた。幸せだった。

バイトの給料が入ったら必ず店に来た。

小春ちゃんは、俺のことを甘やかしたり叱ったりして、あたたかく見守ってくれた。

嬉しかったんだ。

俺がわがままを言えるのは小春ちゃんだけだから。

出会いがカッコ悪すぎた分、何も装う必要がなかったんだ。

ありのままの俺でいられるのは、小春ちゃんだけだったんだ…。

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