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小春食堂【ARS】

第3章 茄子とにしんの炊いたん【翔】

「茄子とにしんの…“炊いたん”?」


俺が首をかしげていると、女性は「あぁ!」と小さな声を上げた。


「“炊いたん”って、京都弁で“炊いたもの”ってことや。
うちは、おばんざい中心の定食屋なんや。」

「おばんざい?」

「おばんざいは、京都のお惣菜のことや。」


そう教えてくれた。


「いただきます。」


俺は、手を合わせて箸をとった。


まず味噌汁を口に含む。
鰹と昆布のだしの味が広がる。
具は、油揚げと小松菜。
油揚げは厚く、中に豆腐の部分が残っている。


「うまい…」


ふたつの小鉢は、胡瓜と蛸の酢の物と、水菜の炒め煮。

酢の物は、程よい甘みの中に、キリッと酢が効いている。

炒め煮は、水菜をさっと炒めて柚子の皮で風味をつけてある。

香の物は、柴漬け
明らかに大量生産品ではない、やわらかな色合いと素朴な味わい。

どれも、とにかくうまい。
決して目新しメニューではない。
しかし、なんかこう、じんわり染み渡るうまさだ。

メインの、茄子とにしんの炊いたんは、茄子と身欠きにしんが砂糖と醤油で炊いてある。
茄子に包丁で切り込みが入れてあるおかげて味が中までしみ、とろけるようにやわらかい。
にしんには臭みがなく、照りがありつややかに炊き上げられている。
少し甘辛い味付けでご飯が進む。

夢中で食べ進めた。
おかずもご飯も口いっぱいに頬張った。

そして、あっという間に完食した。

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