テキストサイズ

小春食堂【ARS】

第28章 千草焼き【雅紀】

俺は、返す言葉もなく黙々と食べ進めた。

玉子焼きには、具がいっぱい入っていてうまい。
刻んだひき肉や椎茸、ほうれん草、枝豆なんかが入っている。

「千草焼きっていうんや。」

「ん?」

俺は顔を上げた。

「その玉子焼き、いろんな具が入ってるやろ?“たくさんの具が入ってる”って意味で“千草”っていうんや。」

「ふーん、そうなんだ。」

俺は今、料理の講釈を聞く気分ではなかったから、とりあえず無難に返事をした。

小春ちゃんは続けた。

「きっと相葉くんの中にもいろんな心があって。つらい心、悲しい心、嫌な心…。でも、相葉くんの優しい心がそれを包み隠してる。」

俺は小春ちゃんの言うことがよくわからず、箸をとめた。
俺は小春ちゃんの顔をじっと見た。

「その“いろいろな心”も含めて、相葉くんなんやないかな。千草焼きみたいに。」

俺は、箸をポロリと落とした。

「小春ちゃん…!」

俺は、胸熱くにこみ上げてくるものを感じて、思わず小春ちゃんに抱きつこうと立ち上がり、味噌汁をひっくり返した。

「あっちっち!」

「もう、その“あわてんぼうの相葉くん”はいらんわ!」

小春ちゃんから厳しい突っ込みが飛んだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ