テキストサイズ

小春食堂【ARS】

第31章 美術研究所講師【智】

路地の突き当たりの建物には、看板も何もない。

しかし、ガラス戸の向こうからほのかに醤油のいい香りがしてくる。

俺はガラス戸を開けて中に入った。

店内には、サラリーマン風の男性客ひとりと、店の人らしい女の人がひとり。

女の人は、「いらっしゃい。」と言いながら振り向いた。

俺と目が合うと、どんぐりみたいに目を丸くしたと思うと、しばらく黙り込んだ。

「うち、日替わり定食しかないですけど、いいですか…?」

女の人は、震える声でそう言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ