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小春食堂【ARS】

第32章 鱧の照り焼き【智】

俺は、カウンターの席に着いた。

しばらくすると、お盆にのった料理が運ばれてきた。

主菜は、鱧の照り焼き。

「鱧の照り焼きか、懐かしいな…。」

俺は、思わず声に出した。

すると、お店の女の人が振り向いた。

「いや…、俺、大学は京都だったんだ。」

俺は、手を合わせて食べ始めた。

小鉢は壬生菜の和え物とひじき。

「んまいね。」

女の人は、俺をじっと見つめていた。

「この壬生菜も、東京ではなかなかないね。食べるの、大学卒業以来かな。」

「…そうですか。」

女の人の声は、まだ震えていた。

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