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小春食堂【ARS】

第33章 約束の5日間【智】

待ち合わせは、大学のロビー。

約束の時間に行くと、すでに和服姿の女性が立っていた。

「すみません、お待たせしちゃって。俺、大野智です。」

俺が駆け寄ると、和服姿の女性はお辞儀をした。

「小春どす。よろしゅうおたのもうします。」

小春さんは、言葉遣いは柔らかだがピリッとした緊張感を漂わせていた。
髪を結い上げて、落ち着いた柄の着物を着ていた。
涼し気な顔立ちで、俺よりはいくらか年上に見えた。

俺は、学内のアトリエに小春さんを案内した。

アトリエは小さな部屋で、この日のために大学に申請して借りた。

普段は専攻別にでっかい実習室で制作するが、今回はモデルさんに気を使わせないよう個室を用意した。

時間は午後、アトリエは静かだ。

小春さんに腰かけてもらうと、イーゼルとスケッチブックを用意した。

「よろしくお願いします。」

あとは、鉛筆の走る音だけがアトリエに響いた。

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