テキストサイズ

小春食堂【ARS】

第35章 芸妓【小春】

「小春、あんた教授(せんせい)のところの絵のモデル頼まれてくれへんか。」

お母さんは唐突に言わはった。

「何やのん、それ。」

うちは、お座敷に出る準備の真っ最中。
男衆に着物を着させてもろうてる時やった。

「教授のところの美大の学生さんが絵のモデル探してはるんやて。小春に頼めへんか言うてはるんやけど。」

男衆が帯をギュッと締める。
うちの気持ちもお座敷に向けてキリッと締まる。

「うちはいやや。そんな子供の相手なんかしとうないわ。」

「そう言わんと頼むわ。教授の頼み、断れる訳ないやろ?」

「……。」

教授というのは、日本を代表する日本画壇の大御所で、うちの上客やった。

「な、教授に返事しとくしな。わかったな。」

お母さんは、有無を言わせず決定した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ