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小春食堂【ARS】

第36章 約束の5日間【小春】

「卒業制作展の案内状ができたら送るよ。」

それは、何ヵ月も先の話やろ?

「俺、頑張って描くから。」

そんなに待てへんよ。

「だから、見に来て?」



「美術館で、大野さんに会えますか?」

大野さんはうなづくと、スケッチブックを開いた。

この5日間、私は一度も大野さんのスケッチブックをのぞいたことはなかった。

スケッチブックの中は、私なんかが触れてはいけない大野さんのけがれない深い部分が込められている気がして。

荘厳なもののような気がして。

神聖なもののような気がして。

私は、スケッチブックを見せてとは言わなかった。

大野さんは一枚のページを破ると、そのすみに何かを書き込んだ。

「これ、記念に。」

渡された紙には、椅子に腰かける私の横顔が描かれていた。

すみには日付とsatoshiのサイン。

私の夢のような5日間は終わった。

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