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小春食堂【ARS】

第37章 美術館【小春】

そこは日本画の展示室やった。

うちは、さっきまでのわくわくした気持ちと打って変わって、体が緊張して硬直するのがわかった。

「ここに大野さんの作品がある…。」

うちは、一歩、また一歩足を進めた。

心臓が破裂しそうに動いている。

ドキドキが耳まで届く。

「……!」

部屋の中ほどに、その作品はあった。

たたみ一畳はあるかという大きな絵やった。

描かれているのは、まっすぐに立っている和服の女性。

凛として、強そうで、でも柔らかい。

それは、祇園の女の立ち姿やった。

「これがうち…。」

大野さんは、何ヵ月もかかってうちを描いてくれていた。

花街で生きるうちの誇りを描いてくれていた。

一筆一筆を運ぶ時、大野さんはうちを思い出してくれてたんやろか。

会えずにいても、ずっとお互いに思いを馳せていたんやろか。

そう思うと嬉しかった。

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