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小春食堂【ARS】

第38章 追いかける【小春】

それからのうちは、魂を抜かれたようやった。

何を見ても灰色に見える。

何を食べても味がしない。

舞の稽古にも身が入らず、もう、脱け殻のようやった。

卒業制作展から2ヵ月が過ぎた3月半ば、教授(せんせい)のお座敷に呼ばれた。

「小春、大野のことは世話になったな。あいつもいい作品ができてよろこんでいたよ。」

「こちらこそ、おおきに。あんなべっぴんに描いてもろうて、なんか恥ずかしいどすわ。」

「大野が小春にお礼を言っていたよ。くれぐれもよろしくとな。」

うちは教授にお酒を注ぎながら、なるべく平静をよそって聞いた。

「で、大野さんは今はどうしてはりますの?」

教授はお酒が進んで、顔を赤くしながら答えた。

「もう東京に帰ったよ。先輩に誘われて、美術研究所の講師をやるらしいよ。」

うちは、そのあとの記憶がなかった。

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