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小春食堂【ARS】

第10章 丹波黒の煮豆【和也】

「本当に、イヤになっちゃいますよ。」


俺は、昼飯に訪れた定食屋でぼやいていた。


「売り上げが上がらなくてこっちはヒーヒー言ってんのに、従業員はいまいちコスト管理の意識が低くてさ。」


この店の店主、小春ちゃんが、俺の前に定食ののったお盆を出してくれた。


立ち上る湯気と、出しの香りが鼻をくすぐる。


「社長さん、腹が減っては戦はできぬ。とにかく、食べてから考えはったら?」

「おっ、今日は黒豆ですね。」


お盆の上の小鉢には、つやつや光る大粒の黒豆。

「それは、丹波黒っていう黒豆や。黒いダイヤって呼ばれることもあるやで。」


「ダイヤかぁ。こんだけのダイヤがあれば、会社も楽になるんですけどね~」


俺は、小鉢の中の黒いダイヤをじっと見つめた。

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