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小春食堂【ARS】

第20章 ぶぶ漬け【潤】

俺は箸を持つと、ぶぶ漬けをかき込んだ。

それは今まで食べたことのない、大人の味のお茶漬けだった。

特別な味付けはない。素材の味わいだけだ。

うまかった。
自然のままの味って、こんなにうまかったんだ。

最近の俺は、コンビニ弁当かファーストフードばかりで、きちんと作った飯は食べてなかった。

母さんの飯、長いこと食ってないな。
ふと、そんなことが頭をよぎった。


「ふう…。」


一気に食べ終わり箸を置くと、ずっと俺を見つめていた女主人が言った。


「今日は泣かへんのやな。」


そう言って、俺の頬を撫でた。

その手は、今までカラダを重ねたどの女にもない、じんわりとしたぬくもりがあった。
何故だがひどく胸をしめつけられるような気がして…



俺は恋に落ちたんだ。

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