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【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 香緒里の問いに押し黙っていたが、やがて口を開く。


「警察は、信用できねぇ……。10年前の件もそうだった」


 六野は苦々しい顔を見せる。


「10年前の……?」


 10年前といえば、丁度香緒里の父親が亡くなった年である。


 香緒里は、10年前まで自分と同じく刑事であった父親が、当時ある事実を追っていたことを思い出す。


 この偶然の一致は、何か関係があるのだろうか。


 傾く太陽が香緒里の黒髪を照らし、鮮やかなナチュラルブラウンに染め上げる。


「世の中にはな、知っていい真実と知っちゃならない真実ってのがある」


 「悪いことは言わねぇ。この件から手を引きな」そう言って六野は背を向ける。


 結局、六野はそれ以上のことを話そうとしなかった。だが香緒里は、あることを確信する。やはり自分の推測は正しかったと。


 そして、全ては10年前で繋がっている――と。


 軽く礼をし、香緒里はその場を後にする。


「【S】……。あの選択は、やはり間違いだったのか……」


 自問する六野の声も、香緒里の耳に届くことはなかった。


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