テキストサイズ

【S】―エス―01

第4章 あかねいろ

 短髪白髪混じりの50代の男と鉢合わせる。


「ひっ……!」


 目の前の男は、何を恐れてか兢兢(きょうきょう)とした声を上げ足をもつれさせながら1歩2歩と後退し、やがて地面にへたり込む。


 瞬矢が1歩踏み出すと、男は護身するように左手を顔の前でかざし、でたらめに振り払う。


「やめろォ! 来るなぁ!」


「――!?」


 男の喚きたてる声で、周囲の視線が一気に集まる。瞬矢も隣にいた茜も思わずびくりと身を震わせ、その叫喚に驚きを露にした。


 男は地面に尻もちをついたまま瞬矢の顔を見上げ、酷く怯えた様子で後ずさる。そしてしきりに「許してくれ、許してくれ」と繰り返す。


「ちょ……、ちょっと待った! おっさん誰だ?」


 全く状況が掴めないといった表情の瞬矢の台詞に対し、まさかと言った様子で男は開口する。


「……! 覚えてないのか?」


 その表情は恐怖から一転、安堵に近いものへと変わってゆく。のそりと立ち上がり、軽くズボンについた土を払うと俯き加減に男は言った。


「まぁ、あんなことがあったんだ。忘れちまった方がいいのかもしれないな」


(『あんなこと』……?)
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ