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【S】―エス―01

第25章 白日のもとに

 
 ――201X年 4月3日。午後4時05分。


 今年も公園の桜は、青空のもと薄紅色の綺麗な花を咲かせている。


 見頃にはまだ少々早いが、恐らくこの桜を見に来たであろう人の姿もちらほら見られる。


 数歩手前を歩く茜は、あの頃と同じ太陽のような笑顔。


「そういえばさ――」


 不意に茜が、歩む速度を緩め切り出した。


「んっ?」


 間の抜けた返答を合図に、茜はくるりと振り返る。


「瞬矢言ったよね?」


 さて、なんのことかと視線を宙に游がせしばし思考を巡らせていると、


「ほら! 瞬矢が私を助けてくれたあの時……」


 当時のいくつかの記憶が呼び起こされ、途端に耳の辺りまで熱を帯びるのが分かった。


「さぁ?」


 だがすぐさまそっぽを向き、忘れたとばかりに素っ惚ける。鼻先にかかる黒髪が、わずかに春の気候を孕んだ柔らかな風にそよぐ。


 本当は覚えていた。否――忘れようはずがない、あの時自身が彼女に向けて告げた想いを。


「もっぺん、言ってよ」
 

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