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【S】―エス―01

第25章 白日のもとに

 栗色の茜の髪を鋤(す)くように、頭に手を当てながらそっと体を抱き寄せ、再び唇を重ねようとしたその時――。


 携帯電話の呼び出し音がそれを阻む。まるで示し合わせたかのような着信音に、瞬矢たちは再び寄せ合っていた体を離す。


「刹那から……かもよ?」


 ズボンのポケットの中で鳴り続ける携帯を手に取り、発信者を確認し眉をひそめる。通話ボタンを押すと、


『――やぁ、兄さん』


 通話口の向こう側から聞こえてきたのは、自分よりも若干高く、けれどもどこか深い響きのある声の持ち主だった。


「なんだ、刹那……何か用か?」


 折角のところを邪魔されたという不満げな意思を露にしながらも、用件を訊ねる。


『――いや、特別用はないよ。……もしかして、邪魔した?』


 通話口の向こうで、刹那がくすくすと笑う。


「お前さ、絶対わざとだろ?」


 耳に当てた携帯に向かい皮肉めいた台詞を放つも、口元には笑みが溢れている。2人の他愛ないやり取りに、思わず茜も両手で口を覆い失笑を隠す。


 そう。2年前、一向に意識が戻る気配もなく昏々と眠り続けていた刹那は、丁度瞬矢が意識を取り戻して1ヶ月余りの後、目を覚ましたのだ。


「今、どこにいるんだ?」
 

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