
【S】―エス―01
第29章 S‐145
◇1
――耳を劈(つんざ)く銃声。
「……やめて!」
次いで少年の声が響く。そこは、長い通路を抜けた到底地下とは思えないほどに明るく真っ白な広い部屋。
白いシャツと黒っぽいハーフパンツを着た少年は床に力なくへたり込み、真っ白な部屋に赤を散らして突っ伏し動かなくなったもう1人の自分を見つめる。
真っ白なその部屋で、少年は強要されていた。【もう1人の自分】の死を――。
「S‐145、君の代わりならまた用意できるんだ」
『S‐145』そう呼ばれた少年の眼前に立つ白衣を着た男は、酷く冷淡な口調で言う。その視線は部屋の奥を捉えた。
男の視線を追い、少年はオートロックで固く閉ざされたグレーの無機質な金属製の扉を見やる。
冷たく重たいその向こうに何があるのか彼は分からず、だが分からないからこそ余計に想像してしまい、床へついた自らの左手に視線を落とす。
本当は、誰も殺したくなかった。
しかしやらなければ、己の価値は……存在は証明されない。覚悟を決めた少年は、目の前の自分のうち1人に標的を定める。
自分殺しを繰り返すうち、少年『S‐145』の心は次第に摩耗していった。
――耳を劈(つんざ)く銃声。
「……やめて!」
次いで少年の声が響く。そこは、長い通路を抜けた到底地下とは思えないほどに明るく真っ白な広い部屋。
白いシャツと黒っぽいハーフパンツを着た少年は床に力なくへたり込み、真っ白な部屋に赤を散らして突っ伏し動かなくなったもう1人の自分を見つめる。
真っ白なその部屋で、少年は強要されていた。【もう1人の自分】の死を――。
「S‐145、君の代わりならまた用意できるんだ」
『S‐145』そう呼ばれた少年の眼前に立つ白衣を着た男は、酷く冷淡な口調で言う。その視線は部屋の奥を捉えた。
男の視線を追い、少年はオートロックで固く閉ざされたグレーの無機質な金属製の扉を見やる。
冷たく重たいその向こうに何があるのか彼は分からず、だが分からないからこそ余計に想像してしまい、床へついた自らの左手に視線を落とす。
本当は、誰も殺したくなかった。
しかしやらなければ、己の価値は……存在は証明されない。覚悟を決めた少年は、目の前の自分のうち1人に標的を定める。
自分殺しを繰り返すうち、少年『S‐145』の心は次第に摩耗していった。
