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少女グレイスと森の魔女

第7章 夜の森のとばり

50『過去』


男は強風の中を突き進んでゆく。




何なんだ、この胸騒ぎは?

何かが私を駆り立てている

妻にはああは言ったものの、どうかしてるのは私の方なのかもしれない



妻には言ってはいけない言葉があった


町の者たちが囁いている森の噂

「森から帰ってきたとしても、ある者は気がふれ、またある者はおびえて何も語らなくなる」

私の妻がまさしくその中の一人だった



私が初めて彼女に出会ったのは随分と前の話だ


その頃は互いにまだ若かった


彼女はとても魅力的ではあったが異常なくらいの警戒心で誰も寄せ付けようとはしなかった

私には彼女が何か怯えを隠そうとしているようにも思えた


そんな影も含めて、私は彼女に強く惹かれ懸命に彼女を口説いた

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