風景画
第84章 intermezzo 童夢Ⅱ 〜イースターとねこ
小さな家の花盛りの庭
色とりどりのポピーを
見上げるように
彼はいた
やがてひとりの老婦人が
花摘みの手を止め
仔猫の彼を抱き上げる
痩せた けれど暖かな手が
漆黒の背中をそっと撫でた
彼と彼女の出会いの時
ビター…
そう呼ぶ彼女の声に
長い尾を高く掲げ
どこにいても駆けつけた
朝の水撒きから始まる
ささやかな営み
食器の触れる音
シャボンの匂い…
彼女の後を付いて回り
時折その動きを真似てみせては
笑いをさそった
ふたりに流れる優しい時間…
けれど
景色はふいに、色を変える
いつもの散策から戻った彼の耳に
慌ただしく出入りする
いくつもの硬い足音
そして
明滅する赤いライトが目に映る
彼女はどこ…?
彼の不安を気にとめるものはなく
置き去られた静寂の中
明くる日も、また明くる日も…
俺は、ひとりか…
さ迷う庭の片隅に
ふたりで隠した
青色のイースターエッグ
そっと鼻先を付けた時
彼女の声が心に届く
待っていて
すぐに帰るから…!
耳を立て 背を伸ばし
潤む瞳の泣き笑いを
風が静かに過ぎてゆく…
(つづく)