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風景画

第90章  intermezzo 童夢 Ⅳ 〜愛する待ち人




パティスリーのドアが開き

悪戯な春風と

子供の声が忍び込む



―外にいるのはミルクの友達?



微睡みから身を翻し表へ出れば

ショーウインドゥを覗くように

背伸びする黒い影



―ビター…?



呼び掛けに振り向く瞳は

少し潤み 金色に輝く



ミルクは頷く

ああ

愛する待ち人に逢えたのだと



見つめるばかりのビターの鼻に

自分の鼻先を合わせれば

温もる心と少しの淋しさ…



―行こう!紹介してくれよ



駆け出すミルクを追い

繚乱たる庭に走り込めば

ショールを肩に

目を細める彼女がいる



―仲良しができたのね



尾を高くあげ

見上げる二匹とひとりに

午後の陽が降り注ぐ



そこへ近づく優しい姿



―マゴムスメ、だよ

遠い街から帰ってきたんだ



老婦人の名を呼びながら現れた

ひとりの娘



その声

なびく金髪

ミルクの心がさざ波たつ



娘の目も

ミルクの碧い瞳から離れない…



やがて膝をつきながら

両手を伸ばし

涙に濡れかかる声で

彼の名を呼ぶ



―ミルク…!



時を超え

あの日の緑の風が吹き抜けた



微かに震えるミルクに

ビターがそっと体を寄せる





長い追憶の旅が終わりを告げた…







(了)



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