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風景画

第94章  intermezzo 硝子の剣




遍歴の騎士ひとり

帰り来て

王の御前に膝を折る



王は騎士を懐かしみ

また 過ぎし日の

急な旅立ちを訝しみ

彼に問う



―何故諸国を巡ろうとしたものか?



窓の遠くで雲雀が囀る



―国を巡るは

心の眼を養い腕を磨く為

すべては

事ありし時大事なものを守る為

と思いましたゆえ…



目を細める王を見上げ

騎士は続ける



―この国がかつて

他国の攻めを受けし折

私は 弱く…ただ弱く

追われる若き王を

お守りできずおりました…



騎士は苦悩の唇から言葉を洩らす



―時を戻すは叶わぬこと

けれど

再び事ありし日は

その時こそ

命を賭してお守りしましょう



熱く見つめる騎士の眼差し…

慕う心が

王の孤独に波紋を広げる



かつての争乱で

多くの愛するものを失った

守りたいもの

大切なもの

もう、二度と…



―命は、いらぬ

その代わり長く

いっときでも長くそばにいよ…!



絞りだすような王の声



午後の日差しの煌めいて

ふたりの時間を包みゆく



騎士の胸に秘めた硝子の剣



誓いとともに

王の心にかざされる







(了)



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