風景画
第96章 poemtory スノウストーム 〜風になる日
彼が生まれたのは
三月の終わりには珍しく
朝からの吹雪が止まぬ
凍るような夜のこと
けれどその瞬間
確かに星がひとつ輝いたと
弟は言う
兄は静かに笑い
同じ日
天へ上った妻を思う
母親譲りの芦毛の子供は
四肢に力込め瞳を上げる
その定まらぬ視線の先に
光満ちる明日を見るように
―この仔は手元に残す…
兄の言葉そのままに
兄弟ふたりきりの牧場で
子馬は育ち
スノウストームの名で
今
大舞台のターフに立つ
馬場を見下ろすガラス越し
弟は
彼と過ごした日々を思い
兄は
あの夜彼とすれ違った命を思う
その誕生を
誰よりも心待ちにしながら
思いを残し、いった人…
―見ているだろう 君
守ってやってくれ、どうか
緑鮮やかな芝の上
風のゆくえを追いながら
彼の耳は
雪の声を聞いた
スタートまで
永遠にも思える緊張…
解き放たれたその刹那
硝子細工の命が光を放ち
彼は、白い風になる
(了)