風景画
第105章 intermezzo 月影さやかに 〜ミルク&ビター
そのBarは
十五日目の月が輝く夜だけに
灯をともす
白猫のミルクは
自慢のショコラを
大きな箱いっぱいに
ビターは漆黒の毛色によく映える
花と老婦人お手製のたんぽぽ酒を
両手に抱え宵闇をやってくる
窓を開け放ち
テーブルと椅子を整える
グラスを磨き
ボトルをチェック
カウンターを拭き終えれば
冴えた月明かりも降り注ぐ
―さあ、始めよう!
互いの蝶ネクタイを結び直し
扉を開ければ
待ち兼ねたざわめきが
一息になだれ込む
流れるジャズに浮き立つ
馴染みの顔
甘えん坊のサビ柄の彼は
お酒の味を覚えたばかり
黒白猫の洒落者は
長い尾を揺らしワインを楽しむ
カウンターの中
シェイカーを振るミルクはそっと
三毛の彼女に
すみれ色のカクテルを注いでいる
合間に重ねる
バーボンロックのグラス…
テーブルを踊るように廻りながら
ビターはたびたび
チェイサーにすり替える
優しく流れる極上の大人の時
ふらりとテラスに出れば
夜風に吹かれる心地よさ
ミルクとビター
どちらからともなく
手にしたグラスを合わせ
天を仰ぐ
今
月の笑い声が降ってくる
今宵は誰もが夢見る一夜…
(了)