凍夜
第3章 花
私が、バーまつもとのドアを開けるとカウンターの中で、マスターがラーメンをすすっていた。
まだ営業前の店内は、気持ち悪いくらいに明るくてホコリがダウンライトに照らされて、天井に向かって舞っていた。
「誰かと思ったら、リナちゃんか。」
マスターが、どんぶりを置きテイッシュで口を拭いながら、立ち上がった。
私はカウンターに置かれたピンク電話の横の席に腰をかけると、「ごめんなさい、食事中に、」と頭を下げた。
マスターは「ちょっと待ってな。」と、どんぶりを持ち直すと奥の方からソフトクリームを持ってきて私によこし、向かいに腰かけた。
「ここのラーメン好きなんだよ。」
どんぶりには赤い字で玉龍と書かれている。
マスターは再び、黄色く縮れた太い麺を汗をかきながらかっ込んだ。
「やっぱ、ラーメンは札幌だよな。」
私はソフトクリームを舐めながら、マスターの広すぎるおでこを眺めていた。
確かマスターと銀さんは、同級生だと聞いていた。
「マスター、さっき、マサシ君来てた?」