凍夜
第5章 渇望
由美子は、急いでいた。
パパと約束した、おつかいの途中、逃げる男とぶつかって転んだ。
起き上がろうとして、アスファルトに手をつくと小さな包みが落ちていた。
由美子はそれをポケットに閉まった。
パパに見せようと思っていた。
待ち合わせをしているミスタードーナツはJR琴似駅に隣接していた。
由美子はミスタードーナツのウインドー越しにタバコをふかすパパの姿を見つけ、早足になった。
でもなぜかパパの顔は疲れきったように目に映った。
「パパ。」
由美子が、近づくとパパは顔を上げた。
「遅かったね、なんかあった?」
「ちょっと、転んだの。ハイ、これ。」
由美子は、おつかいした茶色い封筒をパパに渡した。
「サンキュー。」
パパはそれを受けとると、トイレに立った。
由美子は、アイスコーヒーを飲んだ。
《お小遣い、何を買おうかな?》
《服かな?漫画かな……?》
楽しいことしか頭に浮かばなかった。
まもなくして、さっきの疲れきった顔など忘れてしまうような元気な笑顔のパパが、「待たせたね♪」と目の前に腰をおろした。