 
ネムリヒメ.
第9章 イチゴ味の夜と….
「…なぁ 葵、お願いだから早く行けって…」
ため息混じりの渚くんの様子からすると、電話の相手は一ノ瀬さんだったんだろう
「ナギ、愛されてるからねー」
そう笑いながら葵くんはサングラスと車のキーを手に取った
「葵くんっ」
アタシは葵くんを見送るのに玄関まで行くと、彼を呼び止めた
「ゴメンね、ほとんど…寝てないよね」
寝坊するほど彼の睡眠時間を奪ったのは確実にアタシだ…
「えっ!? そんなの気にしなくていいのに」
優しく微笑みかける葵くんに胸がキュッとなる
「でもね…」
すると彼に髪をクシャッとされて頭を引き寄せられた
「次は抱くから…」
彼の、日に透けて輝く金色の前髪から覗く青い瞳が、妖しい光を放ちながらアタシを捉える
「………」
「…じゃあね」
葵くんは目を見開いたまま固まるアタシに軽く口づけると、オンナ殺しの笑顔を浮かべて颯爽と玄関を出ていく
なんか…ヤバい………
…開いたままの玄関の扉から太陽で暖まった午後の空気が吹き込んでくる
それはそっと肌を撫でるように吹き抜け
爽やかな緑の匂いと
彼の香水の香りがした…
 
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