ネムリヒメ.
第27章 ***
そしてこちらへやってきた彼は固まったままでいた聖くんの頭をくしゃりとひと撫ですると、アタシの方へ向き直った
「千隼…」
それから呼ばれた声は穏やかで、その声に一瞬呼び起こされそうになる弱さに思わず気持ちが揺らぎそうにもなるけれど…
「…さっき言ったことは本当か?」
怒声に掻き消されかけた言葉尻をけして聞き逃さなかった渚くんの、
彼からまっすぐ向けられる視線と顔に
アタシはただまっすぐ見つめ返して深く頷く
「アタシ…ッ…────」
……と、
「……だから言ったじゃない」
不意にどこからともなくそんな声…
それは…
「千隼は絶対にそう言うって、さ…」
耳にあまり馴染みのない割りには、よく覚えのある艶のある低いハスキーボイスで…
「…ねっ!?クスッ…クスッ…言った通りでしょ?」
どこか愉快そうに含みを持たせたその声に、全員が弾かれるように決まって床に視線を落とす
無論それは、想像もしない姿で床に転がされ、つい今の今まで沈黙を保っていた"彼"であり、
見ればどんなテクニックを使ったのか、いつの間にか口枷を上手く外していた郁さんが、可笑しそうにクツクツと肩を揺らしていた
ここからでは、課せられた見るも無残な拷問の痕跡にベッタリと張り付いた髪で、その表情はよくわからないけれど…
「ねぇ…千隼?早く証明してよ。オレの言うこと、誰も信じたくないみたいだし…」
「………」
この人はいつだって変わらない
「そんなもったいぶらないで早く…ねぇ」