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お嬢様♡レッスン

第33章 とある執事の決意Ⅰ(黒崎編)

「失礼します」

朝から色々とバタバタした日の午後、葛城の元へ一人の男が訪ねて来た。

「どうしました?珍しいですね。貴方が訪ねて来るなんて。まぁ、お掛けなさい」

葛城は男に椅子を勧め、自分もその前に座った。

「単刀直入にお伺いします。何の用でしょうか、黒崎?」

「はい。綾芽お嬢様の執事を辞退させて頂きたく、御相談に上がりました」

「何か御不満でも?」

「いえ、待遇にもお嬢様にも何一つありません。唯、色々と思う事がありまして…」

「伺っても?」

「はい。私は大学で経済学・経営学を学び、今は法律を院で学んでおります」

「ええ、存じておりますよ」

「私は執事としてではなく、秘書として綾芽お嬢様をお支え出来ればと思いました」

「成程…」

「ですので、葛城さんの方から旦那様にお口添え頂ければと思いまして…」

「それは構いませんが、丁度、旦那様が来週の頭にお戻りになる予定です。直接お話してみては如何でしょう?。私の方で旦那様とお話出来る機会を設けます」

「本当ですか?有難う御座います」

「いえ…。綾芽様にはもう、お話になったのですか?」

「いえ、まだです」

「そうですか…。旦那様にお話する前に、綾芽様とお話になった方が宜しいかと思いますよ?」

「恐らく、お嬢様は分かって下さいます」

「まぁ、そうでしょうねぇ…」

「お話したかったのはそれだけです」

黒崎はそう言って立ち上がる。

そして礼をして葛城の執務室を出て行った。

その後ろ姿は、決意を感じさせる逞しい男の背中だった。

グループトップの秘書は知識があるだけでは務まらない。

関係者への配慮、根回し、汚い仕事もある。

唯、スケジュールを管理するだけの仕事ではない。

黒崎の様に実直な男に務まるだろうかと、葛城は心配したが、それも覚悟の上で黒崎は道を選んだのだろうと思い直した。

しっかり考えて彼が導き出した答えだ。

応援してやらねばなるまい。

そして、自分もこの先どうするべきなのか、今一度真剣に考えるべきだと葛城は思った。

綾芽の事も、仕事の事も。

次の旦那様の渡米の際に、あちらに付いていってみようか。

それも、旦那様がお帰りになったら相談してみよう。

一人の男の決意に寄って、葛城も自分の為の第一歩を踏み出す決意をしたのだった。

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