無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

「葛城取締役、あの、この書類はどうすればいいでしょうか？」

そう言って橘あかりが葛城に擦り寄る。

葛城は彼女から書類を受け取ると、眉間に皺を寄せた。

「これは先日も説明した通りですが、覚えておりませんか？」

「そうでしたっけ？」

「貴女、確かノートにメモを取っておりませんでしたか？」

「え～？ちょっと待って下さい。ええ…っと………。あ！ありました！」

「貴女には一通りの事はご説明した筈です。ご自身で調べてから尋ねて頂けませんか？」

「でも…。探すよりもお尋ねした方が早いですしぃ…」

そう言って橘は葛城を上目遣いで見る。

葛城は彼女の視線を冷たい目で返すと、溜息を零した。

「貴女は会社が貴女の事を解雇しないと思っていらっしゃるのでしょうけど、ここまで教えても進歩がない場合は、この会社には不向きと言う判断で解雇に至りますよ？」

しかし、葛城の言葉に橘は動じなかった。

それが葛城には引っかかる。

いくら橘の父親が本部の役員だとしても、他者の人事に口を挟める程ではない。

どこからその余裕が生まれてくるのだろうか。

葛城は柏原にそれとなく橘の動向を探る様に指示する。

だが、柏原も暇ではない。

橘が社外に出れば、その動向は探れなくなる。

仕方が無い。

自分で探る他、方法はなさそうである。