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叶わなかった物語

第5章 5

「小野塚センセー!お帰りですかァ?」
「…んだよ、要だろ」

僕は振り返りもせずに、前を向いたまま
答えた。
井戸崎要。27歳
実家の幼稚園を継ぐべく、毎日子ども達と
奮闘中。心なしか、昔のチャラさはなくなり
精神年齢が広輝に近づいてきた気がする。

「早いんじゃん、今日」
「おれの仕事なんて、ない方がいいんだよ」
「うわ、かっこいいこと言う」
「要は?今日」

幼稚園から目と鼻の先に住む要が、病院の
近くを歩いているのは珍しい。

「ん。ちょっと」
「うち、寄ってく?今日のぞみ、休みだし」

ていうか、要の足はうちを向いている。
すでにうちの前まで来たし。

「のぞみに呼ばれたんだよ。さっき」
「さっき?なんだ」
「真緒も」

なんか、なんかこいつ幸せな匂いがする!

「要、もしかして。おまえ、真緒と」
「あー!バレてんじゃん!流星やっぱすげーわ」

玄関には、のぞみは履かない華奢なサンダルが
あった。
短い廊下を過ぎて、リビングに続くドアを
開けると、

「「結婚おめでとー!」」

のぞみと広輝がハイテンションに叫んだ。
テーブルにいっぱいの料理が並んでいる。

「いや、おれ要と結婚するつもりないし…」
「あははははは!!それもアリかも!」

笑ったのは、真緒だった。
加納真緒。27歳。
しっかり者の僕らの姉ちゃん的存在は、
小学校の先生になって5年目。彼女も昔の
クールさがほどよく抜けて、僕のことも温かく
見てくれるようになった。

「流星。のぞみ」

要は真緒の隣に立ち、改まって言った。

「二人のおかげで、おれ、今世界一幸せ。ありがとう。…これから、3人でもっと幸せになるから!」

やば、泣きそうだ。幼なじみの幸せなります
宣言。
いや!いま、要、3人って…?

「そう!赤ちゃんができたの!」

真緒がこれ以上ない笑顔で言った。
仲間の幸せは、僕の幸せでもあるんだ。

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