遠い約束
第5章 喫茶室の情景 (三)
便りが絶えた時であっても忘れたことはなかった。
街で海軍の軍服姿を見るたびに、はっとして、前に回り込んではその顔を確認したくなる。
そんな自分を何なのだろうと思っていた。
「本当に突然目の前に現われるのですもの、驚いて声も出せませんでした」
「申し訳なかった。ただ事前にと言ってもどうしたらいいか迷っているうちに当日になってしまったものですから…」
その日冴子は体調がすぐれずしばらく臥せっていたが、夜になってようやく床を出ることができたのだ。
夫の駿介は無理をするな、と労ってくれたが、やはり晩餐会の主催側に妻の存在は不可欠だったので安堵の表情を浮かべていた。
ただ、いつもする確認をし忘れてしまったのだ。
訪れる客たちの名前を…