遠い約束
第5章 喫茶室の情景 (三)
あの日、冬吾さんが来ることを知っていたら私はどうしただろう、と冴子は心の中で自問してみる。
いつも一緒にいた幼なじみ
何くれとなく自分を気遣い優しく守ってくれていた
いつまでも続くと思っていた無邪気で幸せな時が終わりを告げた日
あれから長い時間がふたりの間に流れたのだ
やはり、今更、だった…
店内の音楽がちょうど曲の終わりを迎え、人のざわめきだけに包まれる。
「冴さん、紅茶…おかわりを貰おうか?」
はっとして我に返ると優しく見つめる冬吾の眼差しがあった。
ああ、この人は変わらないのだ
と思うと、突然哀しみとも切なさともつかない感情が胸の奥底から湧きあがり、涙であたりが霞んできた。