遠い約束
第1章 序〜喫茶室の情景 (一)
「あなたは子供の時分もときどきそんな事を仰ってたわ」
遠い記憶をたどりながら微笑む冴子に
「そうそう、冴さんの方が腕白だった。体が弱いのに、と随分気を揉んだものですよ」
いかにも可笑しそうに語る冬吾。
冴子の胸は再び波立つ。
「あら、私の方こそこんなに優しい坊っちゃんに海軍さんが勤まるのかしら、って心配しましたわ。冬吾さんが海軍兵学校に入ると決まったとき…」
目の前の金ボタンを見つめながら入学の報告に来た日、初々しい冬吾の軍服姿が凛々しく眩しかったことを冴子は思い出していた。