遠い約束
第3章 喫茶室の情景 (二)
「いや、本当に、なかなか大変なところへ来てしまった、と思いましたよ、入学直後は」
「でもおうちの決まりごとだったのですものね」
「ええ。でも人は環境に慣れていくものだ、と言うことがよくわかりました」
「本当に。今では立派な海軍中佐殿ですものね」
冬吾が江田島へ立ったのち、胸にぽかりと穴が開いたようだったことを冴子は思い出していた。
「大人になっていくというのは、随分つまらないものですよね」
その後の生活も大きく変わっていったことを思い併せ、冴子はつぶやいていた。