遠い約束
第3章 喫茶室の情景 (二)
「あれから家に戻った時ぐらいになってしまいましたね、冴さんに会うのは」
遠い日を思い出すようにカップを置きながら冬吾は穏やかな口調で続ける。
「会うたびにあなたは綺麗になって、もう私のことなど相手をしてくれないのだなと淋しく思ったのですよ」
それは違う、と当時の自分を思い冴子は冬吾を見やる。
あの時私は訳のわからない苛立ちを抱えていた、と。
「女学校に入って少し大人になった気がしていたのでしょうね。
それに、私の目にもたまに会う冬吾さんは眩しくて、何を話していいのかわからなかったのですよ」
今ならわかる自分の気持ち、苛立ちのほろ苦さを紅茶とともに飲み下す。