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桜並木を見おろして【ARS・O】

第9章 小春食堂

夜になって、櫻井さんが来た。

櫻井さんに、ご飯大盛の定食を出したあと、大野さんが持って来てくれた紙袋のことを思い出した。

紙袋を開けてみると、新聞紙で包まれた湯飲みが入っていた。

「きれいな湯飲みですね。清水焼ですか?」

櫻井さんが、目ざとく見つけて聞いてきた。

「うん、京都の窯元の友人がくれたんや。」

湯飲みには、細やかな桜の模様が描かれていた。

そのはんなりとした桜を見ていたら、知らず知らず頬が緩んだ。

「小春さん、京都で何かありました?」

櫻井さんが、意味ありげに決め顔で聞いてきた。

私は答えなかった。

何も答えずに、ふふっと笑った。

櫻井さんもふふっと笑って、モグモグと食事を再開した。

相変わらず、ハムスターのように頬っぺにご飯を詰めこんで食べている。

私は、しばらく湯飲みをながめていた。

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