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桜並木を見おろして【ARS・O】

第10章 アトリエ

大野さんが、次の公募展に出品する絵のモデルを私に頼んできた。

私は断ったが、どうしてもと頭を下げられ、仕方なく承諾した。

それから、毎週日曜日は大野さんのアトリエに通っている。

コーヒーを飲み終わって、私はカップを洗って水切りかごに伏せた。

流しの横の棚に、見覚えのある湯飲みを見つけた。

「智さん、この湯飲み…」

大野さんが、こっちにやって来て棚をのぞいた。

「ああ、タケシがくれた湯飲みだな。」

「私もこれと同じものもらった。」

「あ、そうなの。新聞紙に『智』と『小春』って別々に包まれてたから、俺中身知らなくて。タケシの新作かな。」

私はしばらく大野さんの湯飲みをながめていた。

よく見ると、私の湯飲みより一回り大きい。

「これって、夫婦茶碗じゃ…?」

「ん、何か言った?」

「な、何でもない!」

私は、あわてて上着をつかむと「お疲れ様!」とアトリエをあとにした。

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