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桜並木を見おろして【ARS・O】

第14章 エピローグ

「そうだ、タケシとアッコの絵がやっとできたんだ。」

「そう、よかったわね。」

「仕事終わりに宅配便で送ってきたよ。」

絵の仕上がりが見てみたかったけど、それは言わなかった。

「日曜日の夕食は、アッコさんに教えてもらった沖縄料理にしようか。」

「おっ、いいね!授業終わったらまっすぐ帰るよ。」

週に一度、一緒に食事ができる日曜日。

それを楽しみに毎日を過ごす。

空を見上げると、細い月。

大野さんもそれに気づいてしばらくふたりで見上げた。

大野さんが、私の手を取った。

手をつなぐような歳でもないのに。

人通りのない住宅街を、手をつないで歩いた。

“智といたら苦労するよ?”

アッコさんにも言われたな。

大野さんの横顔をちらりと見た。

大野さんが気づいて、私に微笑む。

でも、今ここにあるぬくもりを信じて。

赤信号の向こうに、ふたりが帰るマンションが見えてきた。



【桜並木を見下ろして・完】

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