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君と僕の見ている風景

第5章 結婚までの道のりー後編ー

居間に入ると、翔のお父さんが何かの資料に目を通していた。


「お邪魔します…お、お義父さん…」


翔父「ああ松本くん。いらっしゃい」


資料から目を上げ、俺に向かって微笑んだ。
けれどその目は…笑わずに俺を睨んでいる。
眼鏡の奥から鋭い眼孔が光る。


………俺は反射的にその場に土下座してしまった。


翔「潤!?」


「申し訳ありません!!」


その声に反応したのだろう、お義母さんが奥のキッチンから慌てて走って来た。


「結婚の許しを得る前に…こんな事になってしまって本当に申し訳ありません!心から…お詫びします!」


翔父「………」


お義父さんは何も言わずに真っ直ぐに俺を見つめている。


「………俺は…翔さんを心から愛してます。僕の人生には彼が必要なんです!翔さんを…翔さんとお腹の子供は…僕の人生を…命を懸けて一生守ります!だから…息子さんを…翔さんを僕に下さい!お願いします!」


翔「………潤…」


リビングが静まり返る。
俺は頭を床に付けたまま、お義父さんの反応を待った。


翔母「………あなた。黙ってたら…」


翔父「………分かってる。松本くん。顔を上げなさい」


「………はい」


言われた通りに俺はゆっくりと顔を上げた。


翔父「………私は…本来人に対して怒鳴ったりする様な人間ではないんだ。相手に威圧的になるのも好きではない」


「はい…」


翔父「だが…君を見てると…そんな気分になるんだ…我を忘れて殴りかかってしまいそうになる…」


「………はい…」


翔父「君に…私の気持ちが分かるか?跡継ぎになる筈だった長男を…ある日突然孕ませられた父親の気持ちを…分かるか?それを本人からじゃなくて報道で知らされる屈辱を…」


「………本当に…申し訳ありません」


「分かります」とも「分かりません」とも言えない。
その表情、言葉からお義父さんがどれだけの怒りを抱えてるのか分かる。


翔「父さん…本当にごめんなさい。悪いのは俺だから」


翔母「あなた。潤くんはこうして挨拶に来てくれて謝ってるのよ」


翔父「今更遅い」


翔「父さん…!」


翔の言葉を遮る様に、お義父さんはソファーから立ち上がった。


翔父「悪いが…2人の結婚を許す訳にはいかない」


お義父さんの言葉が、俺と翔の胸に深く突き刺さった。

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