テキストサイズ

彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに

「このコンテナを倉庫に運んだら今日は帰っていいよ」
「OK」

南部の訛りが強い英語も、慣れてしまえば
どうということはない。
むしろ、それが最初に覚えた英語だから
違和感がない、と言うほうが正しい。
こっちに来て初めて乗ったフォークリフトも
言葉と同じで4年も経てばお手のものだ。
クレーンから降ろした10トンはあるコンテナを
僕は器用にバックで運んだ。
ここからコンテナは船に積み込まれ、海を
渡ってどこかの港でまた降ろされる。
どこに行くのか、中身が何なのか気にした
ことはない。
テキサス州南東部に位置するヒューストン港は
全米第二位の貨物取り扱い量を誇る巨大な
港湾である。
シップ・チャネル沿いには製油所がずらりと
並び、ヨーロッパから輸入される車の
ほとんどはこの港を通過する。

「じゃあな、ジョー」
「また明日な、ヒロ」

中古のインディアンにまたがって、いつもと
同じ速度で同じ道を走り、トッドヒルロードに
ある小さなアパートメントに帰る。
数えるほどしかすれ違わない車は、日本車
だった。
ドアを開けて部屋に入れば、誰かがいることも
あるし、いないこともある。
でもここ1年は、自分以外の人間がここに
入ったことはない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ