彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第2章 友達でいたかった
市高は進学校で、実は放課後の練習は二時間までと決められている。その後一時間は何とか目をつぶってもらっていた。その上、他の運動部との兼ね合いで毎日グラウンドを使えるわけでもない。それでもみんな、工夫して練習してきた。ある部員の不祥事でそれが水の泡になったとしても、そこで終わりたくはない。
それは部員みんなが同じで、それぞれ自主トレを続けていた。市営グラウンドを借りて試合形式の練習もできる限りしている。
着替えて自転車に乗り、正門を出ると千咲がいた。
「…広明、待ってんの?」
「うん」
「もうすぐ来るよ」
「…ありがと」
「あのさ」
広明がもうすぐ来ると聞いて、グラウンドのほうに駆け出した千咲を引き留めるようなかたちになった。
「何?」
千咲は制服のスカートを翻して、振り返った。
「野瀬んちって、花屋なん?」
「…そうだけど」
「ひまわり、」
「え?」
「ひまわり、ある?」
「まだないよ。取り寄せになるかな」
あれは、真夏のひまわりだった。まだ肌寒い春にはないだろう。
「じゃあ、今って何があるの?」
「シャクヤク、クレマチス、ガーベラ、チューリップ、ベルフラワー…かな」
「おまえ、花束って作れる?」
「…できるよ」
「じゃあ、明日いく。おまえんち。誕生日の花束作ってほしいんだ」
誕生日ね、どんな感じの人?と千咲が聞いた。奈緒子に、というのは少し照れる。
「ん?あー…どんなかな」
「珍しい、渡辺くんが考えてる。女の子?あ、彼女!?住友さん?」
「まあ…そう」
千咲の顔がパッと明るくなった。やっぱりわかるのか。
「わかった。かわいい感じの、考えとくよ。明日ね」
その時ちょうど広明が来た。
色々聞かれるのも面倒くさいので、そのまま学校の外に出た。