彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第2章 友達でいたかった
次の日、練習が終わると、片付けをしながら練習記録をつける奈緒子に話しかけた。
「後で、電話するよ」
「あ。うん…」
「ん?」
何か言いたげな雰囲気を残して、奈緒子は
マネージャーの仕事に意識を戻した。
僕と奈緒子が付き合っていることは、広明以外は知らない。だからあまり練習中は話さないし、校内で会っても僕は、他の先輩と同じように挨拶する。奈緒子が卒業したらもう少し彼氏っぽく振る舞えるのかな。でもよくわからない。
「あれ、今日帰る?もう投げない?」
広明がマスクとプロテクターを着けかけて、やめた。代わりにバットを手にした。
「じゃ、おれはバッティングして帰るよ」
「うん。また明日な」
僕は急いで帰る用意をした。
学校からすぐ近くにある駅の裏だと聞いた。
『フラワーショップ野瀬』。
日の暮れかけた坂道を駅に向かって降りて行く。まだ少し肌寒い風が、制服を通り抜けていく。立ちこぎをすると、背中に風が入った。
奈緒子の誕生日に花束を買いに行くというより、花に囲まれて笑っている千咲に会えるかと思うと単純にうれしかった。
僕は、あの頃から何も変わっていないことに気がつく。
ヒロみたいに、笑いたい。
ヒロみたいに、なりたい。
ヒロみたいに、千咲を笑顔にしたい。
とっくにあきらめたはずの想いが、あふれだす。
キッ、と自転車のブレーキをかけてとまると、道路を隔てた店先に千咲がいた。制服の上に真っ赤なエプロンを着けて、客に説明をしていた。いつもはまっすぐに下ろしている髪をひとつにまとめ、花をバケツから取り出して、手際よく束ねていく。色とりどりのリボンを巻いて、客に手渡した。渡された客も、思わず笑顔になる。
店で千咲ひとりになると、僕は迷わず自転車を降りて通りを渡った。
「後で、電話するよ」
「あ。うん…」
「ん?」
何か言いたげな雰囲気を残して、奈緒子は
マネージャーの仕事に意識を戻した。
僕と奈緒子が付き合っていることは、広明以外は知らない。だからあまり練習中は話さないし、校内で会っても僕は、他の先輩と同じように挨拶する。奈緒子が卒業したらもう少し彼氏っぽく振る舞えるのかな。でもよくわからない。
「あれ、今日帰る?もう投げない?」
広明がマスクとプロテクターを着けかけて、やめた。代わりにバットを手にした。
「じゃ、おれはバッティングして帰るよ」
「うん。また明日な」
僕は急いで帰る用意をした。
学校からすぐ近くにある駅の裏だと聞いた。
『フラワーショップ野瀬』。
日の暮れかけた坂道を駅に向かって降りて行く。まだ少し肌寒い風が、制服を通り抜けていく。立ちこぎをすると、背中に風が入った。
奈緒子の誕生日に花束を買いに行くというより、花に囲まれて笑っている千咲に会えるかと思うと単純にうれしかった。
僕は、あの頃から何も変わっていないことに気がつく。
ヒロみたいに、笑いたい。
ヒロみたいに、なりたい。
ヒロみたいに、千咲を笑顔にしたい。
とっくにあきらめたはずの想いが、あふれだす。
キッ、と自転車のブレーキをかけてとまると、道路を隔てた店先に千咲がいた。制服の上に真っ赤なエプロンを着けて、客に説明をしていた。いつもはまっすぐに下ろしている髪をひとつにまとめ、花をバケツから取り出して、手際よく束ねていく。色とりどりのリボンを巻いて、客に手渡した。渡された客も、思わず笑顔になる。
店で千咲ひとりになると、僕は迷わず自転車を降りて通りを渡った。