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第30章 時計じかけのアンブレラ II S×A







今でも忘れられないよ、あの顔。


翔さんが急いで相葉さんの病室に
入ってきて、雅紀って名前を呼んだあと。


「…誰?」


そう言われたあとの翔さんの顔。


絶望とか、そんな言葉で表せられるような
感情の漏れた表情じゃなかった。


だけど、どんな顔をしてたって

俺には滑稽で滑稽で堪らなかった。



自分には、誰って言ってるのに
俺には、

「かず、怖いよ…。」

って、ぎゅっと抱きついてきてる。


そんな受け入れがたい現実を
いきなり突きつけられてるんだもんね。


さすがに、大野さんみたいに
すぐに状況を呑み込める余裕は
ないらしい。


「ごめん…。智くん、

部屋に戻ってくんない?」


翔さんは、すぐに部屋を出ていった。


ねぇ、翔さん。

どう思った?


自分のものだったはずの人が、

自分の目の前で他のヤツの名前を呼んで、
他のヤツに抱きついて、
他のヤツに助けを求めてて。


どう思った?

苦しいだろ?
悲しいだろ?
切ないだろ?



でも、何でなんだよ。

俺までなぜか苦しくて。


やっと願いが叶ったはずなのに。

俺だけを見てるはずなのに。


なのに、なんでこんなに虚しいんだろ。


心ごと振り向いてくれてなかったって、
気がつくのはもう少しあと。



今はただ、

俺だけがこの温もりを得ているんだ。


その優越感のほかに、何にも感じてなかった。



To be continued....

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