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覚醒

第16章 予感

出ていく康太の後ろ姿を見つめていたが、真実の瞳からは一粒の涙も零れることは無かった。

何故か…。

「…真実、大丈夫かい?彼はまたいつか、君の所に戻って来るよ。さぁ元気を出して。パパがついててあげるから」

聡は、真実を抱き締めた。


あれから、康太とは会っていない。学校でも顔を合わさなかった。テニスサークルも辞めたことを聞いた。

康太と別れて、心に穴が空いたようだったが、会えないことで、どこかホッとしている自分がいるのも確かだった。




クリスマスイブ。

真実は、一人ぼっちで過ごしていた。

「ただいま~」

母、夏海が帰ってきた。

久々の母の帰宅。嬉しさと後ろめたさが混在している。

父とカンケイしたあの日からずっとだ。

母はクリスマスケーキを持っていた。

「ママ、どうしたの?仕事じゃなかったの?」

「やっと休みが取れたの。パパは仕事だって言うから、女同士でクリスマスやろっ!」

久し振りに母の手料理を食べ、ケーキも食べておしゃべりした。

「真実、綺麗になったわね。彼と上手くいってんの?」

「………」

「ん?上手くいってないの?」

「…別れちゃった…」

「…そう、でもまたいい人できるわよ。真実、可愛いもん」

「…好きな人がいるの…」

「へぇ。そうなの?どんな人?」

「…年上…」

「前の彼も年上じゃない」

「…もっとずうっと年上…」

「…大丈夫?遊ばれてない?」

「愛してるの!その人じゃなきゃダメなの!誰にも渡したくないの!」

「…そう、上手くいくといいわね。頑張って。でも学校も頑張ってよ」

「…うん…」

「そうそう、ママね今、例の癌の研究してるでしょう?それで日本の各研究チームから一人ずつドイツの大学で研究できることになったの。ママそれに指名されちゃった。でもまだ迷ってる。あなた達を置いてドイツなんかに行ってもいいのかどうか…」

「凄いわ!ママ、こんなチャンス滅多にないわよ!行くべきだわ!私たちのことなんか気にしないで!」

「…そう、ありがとう。あなたの気持ちは分かったわ。パパにも相談してみるわね」

夏海は真実に賛成して貰って、嬉しいような引き留めて欲しかったようなモヤモヤした気持ちになった。しかし、滅多に家にいない自分は、引き留めるほどの存在ではないことなど百も承知で、当然予測できた答えだ。

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